集まらなくても働ける時代に、なぜ私たちは集まるのだろう?(前編)
オンライン会議やリモートワークが身近になったコロナ禍を経て、今あちこちでオフラインへの揺り戻しが起きていることを耳にする。集まらなくても働けるこの時代に、なぜ私たちはまた集まろうとしているのか。チームづくりの一歩手前にある「集まること」について、フリーランスとしての経験を持つEat, Play, Sleep inc.のメンバー3人で話してみた。
●岡安いつ美(おかやす・いつみ)写真左
京都市在住。大学卒業後に京都市内のライブハウスに就職し、2014年にWebメディア・ANTENNAを立ち上げ。その後Webディレクターとして働きながら、フォトグラファーとしての活動を開始し、2019年に独立。人物写真を中心に撮影を行う。
●山本洋平(やまもと・ようへい)写真中央
日本・カナダでマーケティングやブランディングに関わり、スタートアップからグローバルブランドまで幅広いプロジェクトに従事。現在はフリーのクリエイティブディレクター/デザイナーとして活動するかたわらで、Eat, Play, Sleep inc.に所属。
●木村有希(きむら・ゆき)写真右
大学進学を機に福井から関西に住まいを移し、企画・編集を生業とする会社に新卒で入社。その後地元の福井に戻り、現在はフリーランスの編集者・ライター・イラストレーターとして活動中。Eat, Play, Sleep inc.ではのメールマガジン・ポッドキャスト制作を担当。
👀つまらない人間になってしまうことへの不安
木村:「集まること」を話す前に、「一人の限界」といったトピックから話してみたいと思っています。お二人とも個人でも活動されてきたわけですが、一人で活動することに行き詰まった感覚を覚えたことはありますか?
山本:自分はそもそも完全に一人で仕事が完結することがほぼないんだけど、コミュニティに所属するような感覚で会社に所属している側面はある。というのも、いろんなところに行かないと、自分自身の中でネタ切れを起こして、どんどんつまんない人間になっちゃうのが怖いなって。
木村:私もフリーになってから半年くらい経った時に「このままでいいのか?」という漠然とした不安がありました。その点では、個人の仕事とEPS(Eat, Play, Sleep inc.)の仕事がある今は、扱うトピックも頭の使い方も全然違う仕事ができて、ありがたい環境だと感じてます。
岡安:洋平さん(山本)が言った「自分がつまんない人間になっちゃう」ことへの不安はすごくわかります。私もWeb制作会社からフォトスタジオに転職した時に、クリエイティブ業界の最新情報が入ってこなくなって危機感を覚えました。フォトスタジオでは撮影の技術はたくさん学ばせてもらったのですが、ヘアメイク担当のギャルのスタッフさんたちが繰り広げる合コンの話題にはついていけず……。
山本:それはそれで何を話してたのか気になるけどね(笑)
岡安:その時に、所属する会社や場によって、どんな人たちがいて、どんな情報が流れてくるかは全く違うんだなと感じました。今、EPS社内の連絡ツールのSlackで行っている「トレンドシェア」は、ANTENNA(※1)を始めた当時から「あのミュージシャンのインタビュー読んだ?」とメンバー間で送りあっていたのを、みんなでシェアできるようにと始めた取り組みです。Slackで投げておくと、次に会った時の話の種にもなるし、あの習慣はずっと大事にしたいなって思ってます。
※1_Eat, Play, Sleep inc.が企画運営しているWebマガジン。カルチャーを切り口に世界のインディペンデントな「人・もの・こと」を紐解く。
👀場所があるだけでは人は集まらない
山本:とはいえ、面白い情報を持っててもそれを外に発信する習慣がない人もいるよね。以前所属していた会社では、月1回の定例でメンバーそれぞれが今学んでいること、考えてることをシェアするっていう取り組みをやってたよ。
木村:いいですね。私は普段住んでいる福井の方ではコワーキングスペースで仕事をしているのですが、他のメンバーは建築や林業関係の仕事をしているので、自分の知らない話題や人に出会えることは刺激になっています。ただ、私を含めて4人しかいないので、どうしても関係性の中で流通する人や情報の種類には限界はありますね。
山本:ただ場所があるだけではそうした環境にならないよね。
岡安:EPSの事務所は、私と堤さん、それとANTENNAメンバーだけが使ってた時期がありました。けれど、堤さんが一時台湾に住んでいたこともあり、私しかいない日も多くて、事務所が倉庫化していきました。場所があるだけじゃだめなんだと身をもって感じましたね。
木村:最近だと、EPS主催で「次の電車がくるまで」を開催したり、好きな映画の予告編だけをひたすら見る「60秒映画祭」などもありましたよね。以前と比べると、A HAMLET(※2)の集まり方って変わった印象ですか?

岡安:「変わろうとしている」が正確かな。EPSのメンバーが毎週来るようになったから、周囲からの見られ方も変わったんじゃないかと思います。
※2:京都府亀岡市の大井町並河にある30棟ほどの集落。旧称を山本住宅と呼び、30棟のうち13棟を改修する計画が始動しており、Eat, Play, Sleep inc.の事務所はここに位置する。
👀一人 or 組織の二元論ではない、集まり方のグラデーション
山本:「一人の限界」っていうトピックから始めたけど、逆に会社にいながら不安を感じたていことがあった。同じ会社に2〜3年いて、人の入れ替わりが少なくなると、どうしても流れが滞ってしまうなって。
岡安:膠着することの危うさは、私も常々感じますね。
山本:そういうこともあって、個人事業主として仕事を受けても、一人で完結しないようにしてる。一人でやると、どうしても予定調和のところに置きにいっちゃってつまんないものができちゃう気がして。
岡安:撮影の仕事はどうしても現場に行かないといけないので、一人でやっていると売上的な面での限界を感じることはあります。周りでも、フリーで活動していたカメラマンさんがライフステージの変化でキャリアを変更しなきゃいけない場面や、ライターさんが就職することもここ数年少なくなくて。会社に所属していると、お給料をもらって安定して働きながら、趣味や副業で外に足を運ぶこともできる。両方を諦めなくていいのは、会社の器の大きさだなって思います。
木村:30〜40代になった時にどう働くか、時々頭をよぎります。今は仕事がもらえていても、一人でやっていてはいつか頭打ちになってしまう怖さもあって。その点で、フリーランスでも、チームで働けるスキルをつけることの重要性は感じ始めているところです。「一人か組織か」みたいな二元論の話ではないですよね。
フリーランスになった時、「まだ20代のペーペーが一人で仕事をしていて大丈夫かな」という不安が頭をよぎることがあったが、山本さんの「一人で完結する仕事はない」という言葉を聞いて、個人事業主=一人でもないのだと気づいた。会社に勤めることだけが、「集まること」ではない。組織に所属するからこそできる関わり方があるにせよ、自分の心持ちや行動次第で可能性は広げられる。「一人 or 組織」という二項対立を知らず知らずのうちに作ってしまっていたことに気づかせてもらった。
膠着した環境に対する危機感や、つまらない人間になってしまうことへの不安は確かにある。けれど、本当にそれだけだろうか?その問いの答えが、どう集まるか?を考えてみたら少しずつ見えてきた。この話の続きは、後編で。
執筆:木村有希(Eat, Play, Sleep inc.)
撮影:浜村晴奈